美容鍼灸シンポジウム

美容鍼灸のシンポジウム

2022年6月3日から5日まで、東京有明医療大学にて、第七一回全日本鍼灸学会東京大会が開催されました。その中で、最終日に丸一日をかけて、美容鍼灸のシンポジウムが行われました。「美容鍼灸のエビデンスと今後の展望」をテーマに、顔面頭部の解剖学、効果とリスク管理、、美容鍼灸の効果機序に関する内容です。これまで美容鍼灸は、患者さんの満足度やメディアによる話題先行で、普及してきましたが、美容鍼灸の研究成果を学ぶ場として、初めての大規模な企画でした。私も、「ここまで分かった美容鍼灸の効果とその効果機序2.顔面の形態に及ぼす影響」というテーマで、講演させて戴きました。ライブとオンデマンド配信の併用での講演でしたが、その視聴率は断トツのトップで、美容鍼灸に対する関心の高さが伺えました。

医学の世界でも、美容のための抗老化技術

医学の世界では、皮膚細胞生物学の発展により、シミやシワ、タルミなど皮膚の老化を抑える技術が語られるようになりました。現在では、多くの皮膚科医も治療のみではなく、美容医療行為を行っていて、医学の世界でも美容に対する関心は高まっています。そのような中で、美容鍼灸に対してもニーズが高まる中、鍼灸が本当に美容に対して有効なのかを、科学的に検証する必要性に迫られています。私は、2015年から明治国際医療大学大学院で、老化に伴う顔面形状の変化に対して、鍼灸刺激がどのような効果を示すのかを研究して来ました。今号では、加齢による顔面容貌の変化とその原因、そして私の研究の一部をご紹介します。

加齢による顔面容貌の変化

顔面の形態的な加齢変化には、下の図に示しますように、
1.額のシワ
2.眉間の立てジワ
3.側頭部の陥凹
4.Baggy eyelid(下眼瞼袋状たるみ)
5.上眼瞼皮膚弛緩
6.外眼角や口角の下垂
7.鼻唇溝の深化
8.頬や顎のたるみ
9.マリオネットライン
などがあります。
これら容貌変化は、主にシワとたるみなどによって発生します。シワやタルミは、皮ふ自体や皮下構造物が、加齢や紫外線(光老化)によって変性することが原因とされています。

キメと小ジワの違い、発生原因は?

皮ふの表面には、浅い線状の溝(皮溝)と、その溝によって区画される、多角形の丘(皮丘)があり、それらが皮ふ表面に紋様を作り、キメと呼ばれています。キメは生直後から発生し、若いころは規則的で肌が美しく見えます。キメは加齢と共に徐々に不規則になっていき、下の写真のように肌が粗く見えるようになってて来ます。キメは表皮の表面の凹凸ですが、その下の真皮乳頭層でその凹凸に合わせて、丈夫な結合線維で裏打ちされているので、自在に伸び縮みが出来ます。キメの役割は、関節の動きに応じて、皮ふが伸び縮み出来るよう、皮ふの表面積の予備の役割を果たしています。
加齢や光老化で皮ふがダメージを受けると、表皮の角層細胞の委縮や細胞間基質の減少、そして真皮乳頭層の結合線維が消失します。そうなると柔軟性や張りが失われ、小ジワが発生してしまいます。小ジワはキメと異なり、表面積の予備ではなく余剰なので、皮ふの伸縮に関わらず常に存在します。

年齢別の肌のキメ

大ジワとは?

大ジワは、下の写真のように、陥凹した表皮の直下に乳頭層がなく、真皮網状層にまで達する深い溝です。真皮網状層の膠原線維束の老化や長年の負荷によって膠原線維の張力が低下し、さらに弾力線維の弾力が低下することで、皮ふの柔軟性が失われることで発生します。

大ジワの組織の断面

大ジワ、タルミの発生メカニズム

大ジワやタルミは、真皮網状層組織の老化変性による張力低下と可動性障害によって発生しますが、さらに、皮下にある構造物、表情筋、筋膜、脂肪組織、支持靱帯、頭蓋骨の加齢変化等も原因なることが分かってきました。
下の図に示しますように、大ジワや タルミの発生メカニズムは、テコの原理と同じように、支点・力点・作用点の3つの関係で説明することができます。まず、力点に掛かる力(力源)になるのは、表情筋の委縮・拘縮や、筋膜の萎縮、重力などです。力点は表情筋が皮ふに付着している部分で、作用点は顔面の皮ふが出っ張ったり、凹んだり、タルミを起こす部分です。支点は、を頭蓋骨に固定する靱帯になります。
表情筋や表在性筋膜に萎縮や拘縮が発生すると、表情筋の皮膚停止部の力点に力が働き、その結果、作用点となる顔面の頬や顎にタルミが発生し、また、力点や支点では大シワが発生します。

タルミやシワの発生メカニズム

美容鍼灸の効果を測定するため新規タルミ測定方法の開発

近年、立体画像を解析して、顔を測定し個人特有の特徴を照合する、顔認証技術が発達しています。私がお世話になっている研究室や、宝塚医療大学でも、顔の立体画像を測定し、鍼灸刺激による顔面形状の変化を測定する試みが行われています。しかし、国内外を含めても、立体の顔面形状を測定し美容鍼灸の有効性を報告した論文はほとんどありません。
私は、まずは測定方法の開発から着手しました。スマートフォンで写した一枚の画像から、独自の方法を使って画像解析することで、立体である顔面皮ふ表面の長さや表面積を測定することに成功しました。さらに、仰向けの状態で頬のところに丸いスタンプを押して写真を撮影し、その次に座った状態で重力によってたるんだ頬のスタンプを再度撮影し、この2つのスタンプ画像を、先の画像解析方法で面積を測定し、それらの面積の比を頬のタルミの指標として使う、新たな測定方法です。この新規タルミ測定方法は、原著論文として発表し、併せて特許も取得しました。

頬のタルミ測定法

美容鍼灸の効果を測定

新しく開発したタルミ測定方法を使って、美容鍼灸の効果を測定してみました。健康成人女性で55歳の方と63歳の方2名に、顔と身体に美容鍼とびわ温灸を施術しました。美容鍼灸施術前のスタンプ面積の比と、施術直後のスタンプ面積比を測定した結果、リフトアップ率は63歳の女性が30.2%、55歳の女性が51.4%と、タルミの改善効果は予想を超える大きな回復を示しました。
これらの結果を元に、美容鍼灸の有効性を科学的に検証するため、今後はランダム化比較試験を行う予定です。
これまで、三砂堂漢方鍼灸院では、健康を回復されたお客様に限定して、健康美容を維持するため、美容鍼灸を行ってまいりました。美容鍼灸を受けておられる多くの患者様から、「小顔になったと言われた」「肌が若々しいけど何かやってるでしょうと言われた」など、お肌の改善の自覚だけでなく、周りの方からの評価も高かいのが特徴でした。今回は、頬の皮ふについてのみ、タルミの測定した結果ですが、美容鍼灸の効果の一端を垣間見たように思いました。
お肌は、唯一肉眼で見える臓器です。お肌を若々しく保つことは、健康維持につながります。美容鍼灸にご興味をお持ちの方が、いらっしゃいましたら、是非ご相談下さい。

参考文献

宮地良樹.美容皮膚科学.日本美容皮膚科学会.南山堂1版.